TAKUMI匠
匠は、伊藤金属総業が80余年ずっと取り組んできた蝶番の製造技術を応用した製品ブランドです。蝶番の構造を知り尽くしたメーカーだからできる、蝶番を活かしたものづくりの形を追求しています。
ブランド名は、「TunagaR」。 社内でのつながり、会社を超えた様々な人々とつながりながら、ものづくりを行いたいという想いをこめています。
TunagaR名刺入れ 誕生エピソード

「つながる蝶番」―伊豆修善寺の町工場と一人の革職人が出会い、生まれた名刺入れの物語
扉や家具が機能するために欠かせないパーツ、蝶番。 「蝶番は、モノとモノをつなぐ部品。そんな蝶番を長年扱ってきた伊藤金属総業だからこそ、人や地域とも、積極的につながってゆきたい」 そんな想いから、ふるさと納税返礼品をテーマにした伊豆市主催の勉強会へと足を運んだのは、2024年5月のこと。 そこで出会ったのが、一人の若き革職人でした。
鹿革ブランド「teku」 ー 命と向き合う手仕事
松本天太(まつもと・てんた)。 伊豆市の地域おこし協力隊として2022年に移住。 自身も猟師として、鹿を狩り、その命を余さず革製品へと昇華させるブランド「teku」を立ち上げた職人です。 伊藤金属総業としては「蝶番と地域の何かとをつなぎ」、新しい商品を生み出す事を考えていたため、彼の扱う鹿革の余った材料で何か作れないかと相談したところ、彼から返ってきた言葉は意外なものでした。 「鹿の命から頂いた革は全て使い切るので捨ててしまう端材は有りません」 その瞬間、自分の都合だけで“材料”として革を見ていたことに気づかされます。 しかし、天太さんは続けました。 「蝶番を使ったモノ、作りませんか? 名刺入れとかできそうです」

「敢えて真鍮」。ー経年変化を楽しめる素材を選定
名刺入れの構造を考えるうえで、まず検討したのが素材でした。 tekuの革製品は、伊豆で捕獲された鹿の革。しなやかでやさしい手触りの天然素材です。 それに組み合わせる金属として、伊藤金属総業が選んだのは真鍮でした。 真鍮は、蝶番の素材としても長い歴史があり、加工しやすく、強度と美しさを兼ね備えた金属です。 ただし通常、真鍮は表面処理(メッキや塗装)を施さないと変色してしまうため、工業製品としては“劣化”とみなされ、敬遠されることもあります。 しかし、tekuの革製品と同様に、真鍮も**「経年変化を楽しむ素材」**。 革と同じく、使い込むほどに味わいが深まり、持ち主ごとに異なる“育ち方”を見せてくれます。 その共通点に気づいたとき、真鍮と鹿革という素材の相性の良さが、ふたりの間で確信に変わっていきました。

蝶番の存在感が光る名刺入れが、ついに完成
完成した試作品を見たとき、ある種の衝撃を受けました。 「今まで、どちらかと言えば“存在を消される”ことが求められてきた蝶番。 それが、こんなにも堂々と“主役”になっているとは・・・」 片手でパチンと開けて、そのまま開いた状態をキープできる構造。 ジッポライターのように、**「開け閉めがクセになる」**と天太さんも太鼓判を押します。 縦開き構造のため、名刺がサッと取り出しやすく、実用性も申し分ありません。 かくして、「TunagaR名刺入れ」 は誕生しました。

[開発後記]
創業以来人や取引先とのつながりを大切にしてきた伊藤金属総業。 扉と柱を繋ぐ蝶番一筋と言ってよいものづくり。 蝶番と地域資源をつなぎ新たな価値を生み出す、伊藤金属らしい商品となりました。 初めての自社商品と呼べる物が、人と人が初めてつながる場面で活躍する名刺入れになったのも、偶然ではない気がします。 「命を無駄にせず紡ぐ革」と「人やモノをつなぐ蝶番」がつながり生まれた名刺入れが “人と人との出会いをつなぎ、物語を紡ぐ道具” になってくれたら、と願っています。